またの冬が始まるよ


“誤解の正しい解き方は?”




     2


暖冬という暢気な空気を押しのけるように、
いきなり冬らしい、いやさ途轍もない級の厳寒が襲い来た1月の終盤。
そんな寒さもどこ吹く風と思えたほどに、
それ以上の突拍子もない事態が振りかかり、
思わぬ展開に総身を凍らせてしまった存在が約二名、
小さなアパートのお2階で愕然としかかっていたりする。

 『イエス様っ、誤解ですっ!』
 『遅いですよ、もう

当事者たちにすれば、
特に何ということもない会話の末に至った展開。
何か不具合でもありますか、支障が出ておりますか、
どれ見せて御覧なさいと、
何の気なしにそうと進んだ運びに他ならなかったのだけれども。

 自他ともに実力や存在感を認めよう“最強天部”という尊が、
 やや鷹揚に腰かけた御主の足下に膝をついての跪き、
 御々足をその手へ押し頂いてたという構図、は

同座していてその流れを最初から見ていれば ともかく、
いきなり視野に入って来ると、それなりのインパクトもあるかもしれぬ。
ましてや
普通のお友達より親しみの濃さや密度が違うことを 得も言われぬ幸いだと堪能中の間柄の
…って言い方では、どっかの公判での答弁みたいに回りくどいですか?(…えっとぉ)
キミは私にとっての特別で、一番大好きな人vvと、
自覚したその上で お互いに告白し合っているというに。
嬉し恥ずかしな それなりの確かめ合いだって、
少しずつ甘くて濃厚な方向へと深め合ってる最中だというに。
それがそんな、あんな構図を見せられたらば

 “…どんな誤解をしたのかを考えるのさえおぞましい。”

いろんな方向でぞっとしない釈迦牟尼様だったりするらしく。
そんな重たい絶望を双肩に負いながらも、何とかがっくり落胆まではしないでおれば、

「追わないのですか?」
「…。」

微妙にタイミングを逃したのは誰のせいかと
厭味半分、即答したかったところだが、
感情が読めないというか常に強気なこの天部にしては
それと判るほどひどく案じるような顔をしてみせるので、

「大丈夫ですよ、慌てずとも。」

そうと応じてから、

「戻ってきたばかりだったのだから、防寒は万全といういでたちでしたし、
 あの勢いで駆け出したのでは、スタミナがもたず、それほど遠くまではいけません。」

「…冷静ですね。」

狼狽えて然るべきシチュエーションだろうにと感じてだろうか、
ほのかに眉を寄せる壮年天部へ。
ふうと吐息をついて見せ、

 「と言いますか。
  追いたいのは山々ですが、
  あまり言をやり取りしないで
  スパッと腑に落ちさせられるような言い回しというのを
  何とかひねり出さないと。」

 「はい?」

手短な言いようをしたのは一刻一秒でも惜しかったから。
だというに このお返事のあまりの鈍さには、
ブッダとしても正直ちょっとばかりイラッと来た。
空気が読めない彼なのは、もはや今更な把握だったが、
それでも…人と人との間の機微とか、
これこれこういう間の悪い巡り合わせが生じたら
居合わせたものとしてはどうなるものかというケースへの、
蓄積くらいはたんと持ち合わせもあろうに。
その証左に、としてブッダの頑迷な言いようをいつだって巧妙に畳んでしまうほど、
何かと周到な論を繰り出せるくらいで察しが悪いわけではないはずが、
なんでまた今の今 それこそ神速でパパッと閃かないのはどうしてだろか。
そこまで人の感覚からは遠い存在が よくもまあ衆生への導きをと我へ説いたものよと、
それこそ一瞬の刹那にぐるんと、
深くも浅くもいろいろな想いが脳裏と胸の内とで巡ってしまったブッダだったけれど、

 “それさえ惜しい。”

脱線している場合ではないと、優先すべきは何かを見失わず、
想いを整理する方へ思考を戻す。

 「イエスの誤解を前に、
  “え?何のこと?”と
  さらりとかわせるだけの言い回しを組み立てておきたいのですよ。」

もしも動揺して居れば、
どれほど真実の言を重ねても“言い分けなんて”と撥ね退けられ、
聞く耳持たずとなる可能性の方がずんと高い。
でもでも、落ち着かせようという冷却時間を持たせるのは、
誤解されたままだということでこっちが辛い。
ジレンマに胸がきゅうきゅうと締め付けられつつも、
落ち着け落ち着けと念じつつ、外へ出るためにと立ち上がり、
押入れの鴨居にハンガーに掛けて引っかけていた上着を取りにとこたつの縁を回り込む。

 「躱すも何も、
  相への不具合はないかと
  私があなたの土踏まずを確かめんとしていたというのではだめですかね。」

真実そのまま、しかも“足下安平立相”にまつわる話は、
イエスも裏事情(…)をようよう知っていると聞いており、
何ら問題なく通じる話ではないかと梵天が言い返したものの、

 「イエスが何をどう誤解したかは考えたくもありませんが、
  彼らにとっての“足を世話する”という行為は、
  日常的な奉仕以上の意味合いもあることなんですよ。」

イエスはあの磔刑に至る捕縛をされる直前、最後の晩餐の折に、
自ら弟子たちの足を洗ってやり、
「主であり、師であるわたしがあなたがたの足を洗ったのだから、
 あなたがたも互いに足を洗い合わなければならない」
と命じた。
その聖句により、足を洗う “洗足式(せんぞくしき)”という儀式があるほどに
キリスト教においては重要なことであり、
本来ならば下僕が主人へ成す行為、
それを身分を越えて為すことで
相手を大切に想いなさいとする教えを示したとされており、
最も愛と信頼に溢れた行いとして説かれてもいて。

 「イエスにしても、梵天さんがキリスト教徒ではないことは判っていようし、
  天部は仏教の守護であり、
  微妙ながら私の弟子という立場とは違うことくらいは承知でしょうし」

それ以上をくどくど言うのはそれこそ時間が勿体ないと思ったか、
掘り下げるのは辞めにして、

 「深爪したのを診てもらおうとしていた、いやいや棘が刺さったから…」

まるで人生における命題でも探っているかのような真摯さで、
どんな言い訳が有効かとブツブツまとめつつ、
ハンガーから上着を外して出掛ける態勢を整える。
あまり遠くまで至ってなければいいのだが、
何となればGPSがあるから行方は追えるけど、
そうそうスマホを忘れちゃいかんと
ポケットを確かめておれば。

 「深爪?棘?
  そのような失態を我らが教祖と崇めているあなたがするはずもなし、
  棘だって寄り付きもしないことでしょうよ。」

馬鹿を云ってはいけないという調子での 梵天からの窘めが飛んできたものだから、
ああもう言葉がまだ通じてないかと歯ぎしりしかかったブッダなのは無理もなく。

 「…ええ、ええ、そうでしょうとも、
  こんな言い訳、方便とも呼べないうそにすぎませんが。」

 「そうですとも。
  いくらイエス様が天真爛漫で素直なご気性でも、
  そんな見え透いた言いようを頭から信じてしまわれるとは。」

今度はイエスを見くびられたくないかのような畳みかけだったのへ、

 「…

憤懣のボルテージが微妙によれたブッダとしては。

 「土踏まずを診てもらおうとしていただけだという言い立てが、
  深爪とどう違うってんでしょうかね。」

 「う…。」

そんなとってつけたような言い分けなんてと
一蹴されるというレベルでは大差なかろうネタにすぎぬということ、
こちらからも畳みかけて差し上げる。
それでなくとも、どこまで何を知っているものかは不明ながら、
ネットでちょくちょく
ややこしいティーンズノベルのバナー広告を目にしているらしいイエスだということも把握済み。
どれほど好奇心をそそりたいものか、
妖しい展開や言い寄りようを描写したものが少なくはないことくらいは
ブッダも知らないではないから、
先程の光景がイエスの想像力のどこをどうつついたものかは

 “それ以上は想像だってしたくはありませんよ。”

ごもっとも。
とはいえ、

 「…。」

判らぬように肩を落としたのは、ちょっぴり歯がゆい気持ちが自分へも沸きたったから。
これが別のシチュエーションだったらどうなっていただろか、
例えば天界の浄土にて、同じような流れの中、
他の弟子が何かしらの誤解をして飛び出してったのならば?
あらまあと意外な運びへ目を丸くしはしても、
ブッダの側だとて即座にピンとは来なかったかもしれないし、
いいやそこは譲れません、すぐさま察しがついたとしても、
頭が冷えるまでは何言っても聞こえないでしょうからと、
相手が自分で何か察すまでは放置したかもしれぬ。
思う心はその人のものとし、
違うんですよという説得という名の言い分けを 恣意的にねじ込もうなんてしなかったかも。
それもまた世の常・世の流れ、争う心は煩悩から発するものと、
達観しての静観したんだろうなと思うにつけ、

 「…。//////////」

恋情においてはまだまだ初心者。
イエスからの誤解だなんて到底放ってなんかおけない、
すぐさま否定しなくちゃと心が揺れてしまった未熟者なのを
こんな形でも思い知らされようとはと、
だがそれもまたほろ甘い苦みでしかないのを胸の内にて痛感しておれば、

 ぴんぽ〜んっ、と

ややもすればひっ迫していた中への投下にしては間延びした調べ、
当家の玄関チャイムが鳴り響く。

 「…イエス様でしょうか。」

彼らしい慎重さか、それとも彼にしては控えめな物怖じか、
地上でそれはなかろう“何奴か”との疑心を込めた身構えつきで
小声でそうと訊いてきた梵天へ、

 「イエスはこの家のチャイムを鳴らしはしないでしょうが…。」

だからこその身構えだとしてもそれは大仰と、
そも向かうつもりだった玄関へ足を運びかかったブッダより先に、

 「居るか、シッダールタ。」

張りのある声とともにドアがバターンっと威勢よく開く。
いかにも元気有り余って溌剌とした、働き盛りな年代の男性の声であり、
ブッダにも重々覚えがあったその主は、

 「よお。あ、梵天もまだいたか。」

こちらに居た彼と同じ部署。
仏界発行のフリーマガジン『R-2000』の編集者にして、
天界の辺境にては 魔物や仏敵と戦う、天部の帝釈天であり。
短い廊下の手前に立っていたブッダに目をやり
その向こうのお仲間に気がついてだろう、そうと挨拶を送って来ると、

 「そこの公園の入り口辺りにイエス様が倒れててな。」

そうと続けてひょいと…一応は両手掛かりだったが
それでも“落ちてた”と言わんばかりな扱い、
ほれとかざすように持ち上げて見せるものだから、
場合が場合じゃなかったらブッダの仏の顔が一気に滅していたかもで。

 「いえすっ。」

あとで聞いたら、勢いよく駆け出したものの、
外の寒さに体が強張ったか何もないところでつんのめって転び、
そのまま動けなくなったらしいのが何とも彼らしい。
しかも、

 「喧嘩でもしたか?
  俺を見て“助かった”って顔じゃない、
  やばい相手に見つかったって顔になったが。」

 「う…。」

あっはっはっと笑い飛ばせる豪気なところが、
梵天とは違った意味で、やはり鷹揚で空気を読めない豪気な彼らしかったれど、
この際はそれもありがたいこととし、

 「イエス?」

外よりはずんと暖かい室内に顔や手がぬくもりつつあるのだろうに、
それでも依然として、罰が悪いという以上に気まずそうな顔で
こちらを見ようとしないで横を向いたままの彼の、
そのつれないお顔を目にしてしまい。
ああまだ何か取り違えたままだと、こちらははっきり拾ったブッダ。
即妙な言い繕いを探そうと胸の内を爪繰りかかったものの、

 “私…。”

嘘で誤魔化してもいいものかと、ここに至ってふと感じた。
聡明なはずが、なのに論理より直感で動くことが多いイエスなのはどうしてか。
人を疑うことを知らぬ、素直さからではなかったか。
弟子からの裏切りにあっても、
誤解にまみれ、嘘に先導された愚かな衆生から寄ってたかって罵られようと、
そんな和子らの前へやはり戻ってきた、人間が大好きな 無邪気な神の子。
彼だって隠しごとをしなかったわけじゃないけれど、
それは私が困るだろうから、
だからと、長い長い間、私への想いを胸の内に秘めていた。
そんな優しい人を相手に、
深爪だの足つぼマッサージだのと誤魔化しを並べようとしていただなんてと、
今になってこみあげて来たものがあり、

 「…あのね?イエス。」

ブッダが紡いだのは結局、

 「土踏まずがない相をありがたいものだとされていた“隠れ苦行”の話をね、
  梵天さんへも持ち出したんだ。
  そしたら、何か不都合でもありましたかって訊かれて、
  具合が悪いようなら問題だから診ましょうかって言われて…。」

ありのままの一部始終。
取り繕ったって始まらぬと思ったのもまた、イエスという存在の偉大さかもしれぬと
のちに感じた釈迦牟尼様だったというのはさておいて。

 「……。//////」

これでそんな言い逃れなんてと一蹴されてもそこはしょうがないと、
それでもやや身を固くして裁定を待っておれば、

 「なぁんだ、そうだったの。」

実にあっけらかんとした声が返ってきた。
え?と知らず俯いていたお顔を上げれば、
どれほど意外そうな顔だったのかが知れそうなほど、
イエスの側でも恥じ入ってしまってから、

「わたし、あのね?
 キミが日頃梵天さんへツンツンしているのは
 私への隠しごとだったのかと思って。」

えっとぉと、まだどこか言葉が足りぬという自覚はあるのか、
もじもじとミトンをはめたままの両手を擦り合わせつつ、
自分の胸の内というものを形にしようと頑張っており。

「嘘はつけなくとも隠し事なら出来るのかって。
 どうしてかまでは判らないけど、
 実は親しいキミたちなのに、それを私にだけ隠してたんだって。
 だったら辛いなぁって思ったの。」

「あ…。」

親しげだったことへではなく、
自分には内緒としていたものがあったブッダだったのが衝撃だったのだと。
じりじりと不器用に、だがだが実直に言い表してくれたイエスだったのへ

 “うわぁ…。///////”

ああもう、どうしようか。
冷え切った手には急すぎる暖かさがジンジンとしびれをもたらすような。
そんないきなりの幸いが襲ったような気がして、
深瑠璃の双眸を見張ってしまったブッダであり。
一方、

「イエス様、あの…」

こちらも何か言いかかった梵天だったが、

 「原稿はいただいたんだな、じゃあ帰るぞ。
  大黒天様も珍しく、
  ネズミたちの観察記エッセー、締め切り守ってあげててくれててな。」

そちらさんの担当だったらしいい、やっぱり地上におわす天部の名を上げ、
同僚の雄々しい身をものともしないで、
ひょいとやはり軽々と引っ張り上げると、
じゃあなと、こちらはブッダの方への会釈を寄越し、そのまま出てってしまう快活さよ。
礼儀知らずなと釘を刺してもいい不調法ぶりだったが
今日のところはその方が助かったと、
終わってみればほんの数刻、
だがだが台風が駆け抜けたかのようなめりはりのありすぎだった数刻の通過に、
今やっとほおと安堵の吐息がつけたブッダであり。

 「ブッダ?」

どうしたの?まだ心配がほどけない?と、
今度はこちらを案じているらしいイエスからの視線に気がついて、

 「ううん、大丈夫。」

そっちはもうもう安堵しまくりだからとの、和んだ笑顔で応じて差し上げ。

 「外は寒かったでしょうに。
  ああほら、ほっぺも冷たい。」

頭とかに汗かいてたのが冷えたろうから、ずんと寒かっただろうねと、
こちらはずっと家にいて暖かいままの手のひらを頬にあててやり。

 「暖かいミルクティーを淹れようね。
  あ、それとカップケーキを冷凍してあるの、オーブンで温めるね?」

表面がカリってなって好きでしょう?と、
目許を細めて訊くと、うんとちょっぴり照れたように頷く彼で。
やあ まだ含羞んでるのかな、子供みたいなことで拗ねちゃったレベルなのかなぁなんて、
そんなピュアなところもまた微笑ましいなと、こちらとしてはじんと来ながら笑いかけ。
かかとを立ててからという品の良さ、ついと立ち上がってキッチンへ向かう。
沸騰湯沸かしに水を張り、マグカップを用意して冷蔵庫からケーキを取り出してと、
段取りよく進めておれば、

 「…。」
 「イエス?」

ダウンジャケットやスヌーヴを取り、
こたつでそのまま一息つくかと思った彼が、
そちらへは向かわず、ブッダの背中へと貼りついてきた。
すんなりとした動きじゃあなくて、ちょっと間を取った彼だったのは
戸惑いや躊躇いが挟まったからで。
でも、甘えかかるのが恥ずかしかったからという、単純なためらいからじゃあなく、

 「あのね? 私ちょっと変なの。」

 「??」

ブッダの二の腕ごと巻き込んで、でも邪魔にはならぬよう加減して。
長い腕で愛しい人をその懐に抱きこむようにして。
安堵しつつも何かもどかしそうな声で、ブッダへと囁く彼であり。
こちらこそ、そんなあまやかな空間へと取り込まれたの、
ああ、イエスの腕だ、背中にあたるのは胸板だと、
うっとりと温もりに浸りつつも じっとして言葉を待っておれば、

 「深爪したとか挫いたとか、
  そんな格好で弱ってるところをゆだねるような、
  実はそこまで心を許していた仲良しなんですよってことを
  何で隠すのかが判らなくて、頭が混乱しちゃったけど。」

 「う…。」

今頃それを持ち出され、
ああ そっちを持ち出してたらそう切り返されてたのかと
今になって冷や汗かいたブッダだったのはともかくも、(笑)

 “…何で隠すのかが判らない?”

イエスの言い回しの中のこれは、おそらく、

 「だって私、キミが梵天さんへ突っ慳貪なのへ、
  仲良くすればいいのになって常々思ってたんだのに。」

なのに、いざ そうならそうでギョッとしちゃったのはおかしいと
そこを言っているのだろうなと、そこもブッダにはすんなりと汲み取れた。
落ち着いておれば、そして、こうまで心添わすことを許されておれば、
こんなにも彼の心が判るというに。
なんでさっきは ああも不安を感じ、
見苦しくも言い訳をと焦るほど取り乱してしまったものか。

 “それはきっと…。//////”

嫌われたくなかったからだろうと思う。
どこのヲトメですかという、他愛ないほど単純な欲求。
でもでも、それ以上はない純粋な願望。
この人から拒まれたなら、忍耐も利かぬほど心が破綻しそうだったから。

 “他愛ない、か。”

何とも幼くつたない想いなことを、でも笑えない。
だからこそ真実なのでもあり、容赦のないもの。
脆くもあるが、周りを傷つけるほどに鋭くもあって。
何の修行も積まない身なればこその真摯さ、
自分の中にもまだあったんだなぁなんて、ほろ苦いことよと噛みしめておれば。
そちらはそういうところを隠しもしなかったイエスが、
だのに何故だか声を落としてこそりと囁いてきた文言が、

 「…これって焼きもちなのかなぁ。
  私、梵天さんに ブッダは私のなんだからってムッとしちゃったのかなぁ。
  それともキミへ、
  何をよその人にもそうまでも…って、ムッとしちゃったのかなぁ。」

そんな心持を持っちゃあいけないよねと訊きたかったイエスなのだろに。
そうとやっぱり判ったブッダだったのに、

 「……。/////」
 「あ。何々、笑っちゃヤだよぉ。/////」
 「笑ってないって。」
 「だって…。」

肩が震えてたもん、私ちゃんと判ったよと、
ブッダよりちょっと背丈が上なほど、
拗ねた口許のお髭がすっかり落ち着いているほど、
いい背格好いい歳恰好の大人が、なのに似合わぬ拗ねっぷりを見せれば、

 「嬉しかっただけ。」

そんな呟きが帰って来、
それへますますと子供っぽくもキョトンとするばかり。

 「え? 焼きもちだよ? 重たいとか醜いとかじゃないの?」
 「だから…キミだって前に言ってたじゃないの。///////」

それだけ私のこと想ってくれたんでしょって。
あ……、と。
いつの間にやら通常運転のお惚気モード、
オーブンを使わずとも程よく解凍できたカップケーキに、
ああ春も近いんですねと、ついつい場外から思ってしまった
小さなアパートのキッチン前だったようでございます。






   〜Fine〜  16.01.22〜1.31.


BACK     *おまけもあったりして…


 *妙なお話でしたね。
  こんなにかかる予定じゃなかったほど簡単なネタだったのになぁ。
  しかも“愛妻の日”に書き終えててどうするよ。
  ホント、時間が欲しいです。(笑)


ご感想はこちらへvvめーるふぉーむvv

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